脱脂粉乳がパン生地に与える主な効果
脱脂粉乳は「風味づけのためのミルクの粉」というイメージが強い素材ですが、実際にはパン生地の状態や発酵の進み方、焼成時の膨らみ方にまで影響を与える非常に重要な副材料です。製パン現場では、生地が締まりやすい、発酵が遅れる、焼色が強く付くなど、脱脂粉乳特有の挙動を経験したことのある職人も多いのではないでしょうか。
脱脂粉乳は製造工程で複数回の熱処理を受けるため、高温殺菌タイプと低温殺菌タイプに大きく分けられます。これらは見た目こそ同じ粉末ですが、たんぱく質の変性度合いやミネラル組成が異なるため、パン生地に与える影響も異なります。特に、乳清タンパク質(β-ラクトグロブリン)やミネラルによる緩衝作用は、生地のpH変化やグルテン形成に直接関わり、結果としてパンのボリュームや食感に差を生みます。
本記事では、脱脂粉乳の種類と製パン性の違い、生地への作用メカニズムをわかりやすく整理し、パンづくりで活用する際のポイントを解説していきます。
なぜパンづくりに乳製品が使われるのか
パン生地に牛乳や脱脂粉乳を添加する主目的は、乳由来の風味付与と乳固形分による栄養価の補強です。
加えて、乳糖によるメイラード反応の促進でクラストの着色性が向上し、乳たんぱくの水分保持作用によりデンプンの老化(β化)が抑制され、保存性の改善効果も期待できます。
脱脂粉乳の特徴とパン製造での役割
パン生地に脱脂粉乳を配合すると、パンの発酵工程で影響が出ます。
発酵:多いと発酵時間が長くなる
パン生地のpHは、発酵が進むと酵母が有機酸を生成するため徐々に酸性に傾きます。
しかし、脱脂粉乳に含まれるカゼインなどの乳たんぱく質には強い緩衝性能があるため、酸が生成されても生地のpHが急激には下がりません。
緩衝作用(バッファー作用)があるとどうなる?
- 酵母が酸を作っても、生地のpHがゆっくりしか下がらない
- pHの低下が遅れるため、イーストが最も活発になるpH帯に到達するのも遅くなる
- 結果として発酵が遅れ、生地の伸展性の発現タイミングも後ろにずれる
このように、乳たんぱくの緩衝作用は「生地のpH変化を緩やかにする働き」であり、
脱脂粉乳の高配合で発酵が遅くなる主要因のひとつです。
発酵:膨張への影響
脱脂粉乳の製造工程、高温処理・低温処理で膨らみ方が変わる
脱脂粉乳は、原料乳を殺菌し、その後噴霧乾燥する過程で、複数回の熱処理を受けます。製品は、85℃以上で加熱する高温殺菌タイプと、より低温域で処理される低温殺菌タイプに分類され、それぞれ機能性が異なります。
高温処理タイプの製品例(85℃以上)
タンパク質の変性が進むため、溶解性が低め・風味がやや加熱寄り・発酵はやや遅れやすいタイプです。主に一般的な業務用スキムミルクはこちらに該当。
・協同乳業 スキムミルク
・輸入品(NZ、AUS)一般的なスキムミルクパウダー(SMP)
大手乳業メーカーの“通常品”はほぼ高温タイプ。焼色強化やミルク風味の補助、冷凍生地の補強にも使われます。
低温処理タイプの製品例(やや低温~中温殺菌)
たんぱく質の変性が少なく、溶けやすい・風味が良い・発酵遅延が起こりにくいなどの特徴がある“高機能型”のスキムミルクです。
これは、低温殺菌では乳清タンパク質(特に β-ラクトグロブリン)が十分に変性しておらず、そのままの形でグルテンと結びついてしまうためです。
β-ラクトグロブリンは小麦グルテンの結着を妨げ、生地のネットワーク形成を弱める性質があります。その結果、生地のつながりが弱くなり、発酵や焼成時の膨らみが抑えられる場合があります。
・よつ葉乳業 「高機能スキムミルク」シリーズ(製パン向けに溶解性・風味重視で設計されたタイプ)
・一部の「高機能スキムミルク(HPSMP)」として流通する輸入品
・製パン・製菓向けに「高溶解タイプ」として販売されるスキムミルク
一般的な家庭用にはあまり流通せず、製パン向け業務用として扱われることが多いです。








